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『「コマ」から「フィルム」へ マンガとマンガ映画』

 

「コマ」から「フィルム」へ マンガとマンガ映画

「コマ」から「フィルム」へ マンガとマンガ映画

 

 

著者の早稲田大学大学院修士論文をもとにしたものということです。

おもにアメリカと日本のマンガとマンガ映画*1の歴史的部分と、メディアとしてのマンガの分析に分かれます。

第一章 アメリカのマンガ映画産業の優位性
 企業家と戦争/コミックストリップの存在
第二章 十九世紀の物語マンガ
 ルドルフ・テプフェル/クリストフ/ウィルヘルム・ブッシュ/イエロー・キッド
第三章 アメリカの初期映画文化
 コミックストリップと映画はほぼ同時期に成立した/見世物としての映画/小屋の観客/映画とコミック・ストリップ/ハーストのコミック・ストリップと映画の戦略
第四章 初期の物語マンガとマンガ映画の成立
 初期アニメーターとマンガ家/動く絵の仕掛けと映画/ジェームズ・スチュアート・ブラックトン/エミール・コール/ウィンザー・マッケイ/『猫のフェリックス』/ミッキーマウス以後
第五章 日本の初期マンガ映画
 黎明期/日本マンガ映画の先駆者/名前の読み方/下川凹天/幸内純一/凹天、幸内のコメント/その他の状況/横山隆一
第六章 マンガ映画とマンガの理論
 線の世界/個人制作が可能/マンガ家の眼/マンガ絵の特徴
第七章 一コマ撮り
 メタモルフォーゼ/時間の創造/素材の同質化
第八章 日本アニメのスタート
 手塚治虫――少年時代/手塚のマンガ映画/虫プロダクションと『鉄腕アトム』/週単位のリズム
第九章 マンガと映画のメディア比較
 「もどかしさ」/構図/時間/「もどかしさ」の正体
第十章 マンガの時間構造
 「目ざわり」と制度/「約束事」の世界/時間の構造/絵と「?」/実時間の符号化/音/視野の自由/愛の時間/時間の変形・誇張/コマの大きさと時間/コマの崩壊と浮遊する時間/実例『忍者武芸長』
第十一章 日本アニメとは何か
 日本アニメの特徴/マンガとアニメ、実例の検討

 第一章から第四章までで、アメリカのコミック・ストリップからマンガ映画までを、いくつかの重要作家をピックアップしながら概観しています。

第五章から第十章までが、日本のマンガのメディア的特性についての分析で、マンガ映画や実写映画と比較しながら考察します。

最後の第十一章で、日本のアニメについて言及しています。ここは『鉄腕アトム』以来のいわゆるリミテッドアニメついて、マンガと比較しながらその特性を挙げています。

 

感想

目次を見て、気になる作家の名前等があれば資料的価値はあると思います。考察はマンガ映画よりも、マンガ芸術がメインです。各トピックは断片的で、記述に「『コマ』から『フィルム』へ」から想像されるような歴史的な因果はありません。私個人としては、著者の分析手法が良くも悪くも中庸で、とくに刺激を受けませんでした。

たとえば、実写はコマとコマとの時間を操作するだけだが、アニメーションの一コマ撮りは時間や空間の創造である、とか。あるいは、映画の時間は観客にとって受動的で、マンガの時間は読者にとって能動的に参加できるものである、とか。言われてみればそうだが、指摘されても特に驚きはないというのが率直な感想です。

●分析と批評の違い

たぶんマンガの技法、文法に関しては、当たり前のようにリテラシーが身についてしまっているということなのでしょう。ただし興味深かったのは、そういった分析言語とは違う、批評言語の味わいを実感できたことでした。著者は、マンガの能動的な時間感覚について映画学者の加藤幹朗氏の「愛の時間」*2という概念を援用しています。で、ここで引用される言葉には魅力があります

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「このジェット機はわたしがコマを凝視し続けるかぎりにおいて無限に永遠に落下し続ける」

 

まあこの辺がさすが批評言語の醍醐味かなと思うのですが、人によってはただのレトリックじゃないかという感想を持つ人もいると思います。でも個人的には「で、それで?」と「ああなるほど!」との大きな違いを再確認という感じでした。

 

 

*1:animated catoon の訳語として。「アニメーション」だと絵だけでなく、人形や粘土などの動画も含まれるので、それを少し限定した概念として使用されています。

*2:

石子順造は「各コマと受けとる時間もまた、受けてのものなのである」と指摘する。これは後に加藤幹朗によって「愛の時間」と呼ばれることになるマンガ特有の、そしてマンガの中で最も読者個人の心理、感性によるところが大きい時間の流れをまさに言い当てている。

加藤幹朗は次のように述べている。

「漫画本を手に取り、それを開いてみるとき、あなたが眺める漫画のひとコマひとコマが、均質化することのできない時間、他のいかなる時間とも交換不可能な時間を生みだす。」