『クール・ジャパンはなぜ嫌われるのか』
クール・ジャパンはなぜ嫌われるのか - 「熱狂」と「冷笑」を超えて (中公新書ラクレ)
- 作者: 三原龍太郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/04/09
- メディア: 新書
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●そもそも書名の問題意識について
書名のキャッチーさにつられて読んでみましたが、本書を読みながら、むしろ「なぜクール・ジャパンが嫌われるとマズいのか」を考えるべきなのかと思いまいた。
たとえば本書がオタクの反応に対する社会学的考察だというならよいのです。たしかに著者は元経産省の官僚であっても現在は文化人類学の研究者なので、後者の立場からのフィールドワークというのもあり得るかもしれない。しかし本書は「誰が嫌っているのか」ということが明確に書かれていません。強いて言うなら、著者のツイッターのリプライなどの、ネットの反応らしいのです。だから嫌われたところで何が問題なのか、という気がしてきたわけです。
というのも、著者はソフト・パワーが喧伝されているクール・ジャパン戦略の第一義は金儲け(経済)だと推断しているからです*1。この立場からすれば「クール・ジャパンを嫌うことで官民お互いのビジネスチャンスを逃す可能性がある」ということなのかもしれない。ただしそうすると、そのようなビジネスマンがクール・ジャパンを嫌っているということになり、これも説得力がありません。逆にそれ以外の人たちがクール・ジャパンを冷笑したところで、どういう問題があるというのか。
遠回しな書き方になりましたが、要するに嫌っているのはそういったプレイヤーたちではなく、消費者・ファン・オタクのことなのでしょう。では彼らがクール・ジャパンを嫌って何が問題なのか。結局本書の題名が『なぜクール・ジャパンは嫌われるのか』というキャッチでプロモーションされたという事実が、なにかクール・ジャパンというものがまとっているパターナリスティックなウザったさを象徴しているような気がします。
●否定的なことを書いてしましましたが
否定的なことを書いてしましましたが、本書自体はそういったクール・ジャパンの表象と政策をきちっと分けて考えよう、という立場であり、胡散臭さはありません。火に油を注ぎそうな「つかみ」である「なぜ嫌われるのか」分析も本書の冒頭の三分の一にも満たない分量です。その後は海外(米)でのオタク・カルチャーの受容のされかたや、具体的な政策などについて詳述されており勉強になります。
●アメリカのアニメ受容について――地理、流通の問題
著者自身が帰国子女で大学院はアメリカ*2だったということもあり、アメリカについての考察は信憑性がありそうです。
アメリカにおけるアニメファンは、進歩的でエスニック文化に理解のある東海岸、アジア系アメリカ人も多い西海岸、およびテキサスのオースティン周辺に集中しているらしい。保守的な中西部や南部にはアニメファンは少ないようです。「アメリカでアニメ産業が存在しているのは、西海岸、テキサス(オースティンとフォトワース周辺)、ニューヨーク、マンハッタンの『3点』だけ、と言っても過言ではない。」
最近「manga anime here」の設立がニュースになりましたが、違法アップロードに現地字幕をつけるいわゆる「ファンサブ」という文化*3については、テレビでの視聴環境が整っていなかったり、現地の関連企業の規模が大きくなく流通に大きなラグがあるため、たとえ違法・非公式であってもネットがインフラとして機能し、ビジネスを補完している側面があるのは否めないようです。
アメリカのアニメ作品は、まずインターネットのファンサブや英語版DVDで広まり、その中でもとりわけ人気の出た作品がようやくテレビで流れる、という順序をたどることが多いのである。アメリカのテレビ(アニメ専門チャンネルなど)は、確実に視聴率を取れると確信の持てるアニメ作品しか放送しない。いきおい、アニメを普及させる力は日本のテレビと比べて弱くならざるを得なくなる。
リンク:クールジャパン/クリエイティブ産業(METI/経済産業省)