前クールのアニメについての短い感想
見よう見ようと思っていたアニメの第一話を躊躇していたら、いつの間に話数が溜まって、なんだかんだで見るのが億劫になりつつ、適当に見始めたアニメに限ってだらだら毎週フォローすることができて、いやいやこれこそがアニメ消費の醍醐味だなどと開き直りながら、前クールに見たアニメに関して短い感想を残しておきます。(順不同)
・『響け!ユーフォニアム』
方々で語られていると思いますが、非常な完成度の作品でした。京都アニメーション作品の中でも頭ひとつ抜けるような。ただし作品として完結しすぎているような嫌いもありました。
ところで少し前に『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか―アニメーションの表現史―』という本を読んだのですが、著者は題名の通りミッキーの口笛とアニメーション表現の密接なつながりについて論じています。曰く、「口こそが『サウンド』と『フィルム』を結び付け、両者の同期を実現する神聖なる器官であった」。著者はミッキーの口笛の誇張されたアクションが音と映像の同期にとって必然的な表現であったと述べています。
まさに音楽を主題に据えた『ユーフォ』ですが、思い出すマウスピースを吹く描写には、ミッキーのような誇張はありません。一方で、登場人物の心が躍動するときに、ナウシカのように逆毛立ったり(?)、瞳が痙攣的に震えたりと、「アニメ」的な誇張表現はもちろんあって、京都アニメーションにおけるリアリズムとアニメーションの線引きに過渡期的・実験的なところを感じました。
以前から気にしているカメラの被写界深度の表現ですが、こちらもまた一歩洗練されていました。被写体が楽器に対して向けられたときの、ボケとシャープネスのコントラストの快感も出てました。
物語内容は実写ドラマに近づいていて、たとえば一時期宇野常寛さんが言っていた「アルタミラピクチャーズ的」な内容を想起しますが、しっかり「アニメ」しています。「別にドラマでやればよくね?」的なトランスメディアな疑問が生じる隙はないのでした。
・『Fate/stay night』
前期はかなり楽しみに見ていましたが、後期は思ったより内省的な内容になっていて驚きました。この衛宮士郎が語るテーマって、たまにアニメで見るなあと感じていたのですが、ライターのさやわかさんがツイッターでいい具合に(しかも作家論も織り込んで)サマライズしてくれていました。
他のことを書いてみると「本物と偽物」という主題は空の境界からFate/hollow ataraxiaまで奈須きのこにとって重要なもので、それはおおむね「偽物であってもそこには本物の思いがあって、本物を超える力を持つ」という内容になる
そのテーマは過去作品を参照し組み合わせながら作品を作りながらも良いものを作りたいという煩悶と矜恃の顕れになっている。2000年代初頭にはこういう主題に拘る作り手がけっこういた
なぜ多かったかというと素材として過去作品が出そろってしまい新しいものを作れないというのが90年代後半のパラダイムだったのだ。そういや昨日のイベントで今のオタク文化は価値相対的、みたいな話になってたんだけど実は違って、それはどっちかというとジャンル問わず90年代的なモードなわけ
で2000年代以降は多くのポップカルチャーがそれを積極的に乗り越えて何かを選び取っていこうというものになる。本物を超える偽物という主題はそこにうまくハマっていた。そして奈須きのこはその意味で相当に早くそこに踏み出した。だから奈須さんはすごい
ただ奈須きのこは超ラディカルな作家なのでFateではその限界も提示してしまう。それが今回アニメ化されたUBWシナリオの次に描かれるHeaven's Feelシナリオで、これは「何かを選ぶことは世界にとっての正義を裏切ることになるのかもしれないんだぜ?」という話になるのだった。完。
・『グリザイアの迷宮/楽園』
これも前期は楽しみに見ていた作品。画角とか音楽とか声優とか(監督の名前とか)、ちょいメインストリームからはずれた感じのセンスのエクストリーム感が気に入っていました。後期はスケールが広がった代わりに、よりB級感(チープ感)が増したのが残念。
・『ハロー!きんいろモザイク』
相変わらずカレンの一人勝ち。個人的に『グリザイアの迷宮/楽園』と合わせて天衝dayというイベント。
・『山田くんと7人の魔女』『食戟のソーマ』
内田真礼さんを名バイプレイヤーとして認識。
・『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』
これは『SAO』的な毒のないウェルメイド作品。ストーリーもアニメーションクオリティも安心して楽しめました。
・『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』
心なしか等身が高くなり、よりリアル路線が増した気がしました。皆気付いていると思いますが、このアニメにおける比企谷八幡は普通にかっこいいです。
・『プラスティック・メモリーズ』
人間とアンドロイドが心を通わせる物語ですが、後半になって、難病もの(アルツハイマー)+尊厳死、というメロドラマを近未来SF設定でやったというかんじに変わっていきました。よって「ロボットに感情はあるのか」みたいな、最初に予想された主題は軽やかにスルー。
物語設定では「ターミナルサービス」とはアンドロイドの所有者である人間から承認を取り付ける仕事なのですが、主人公カップルの動向はむしろ、アンドロイドのターミナルケア、つまり人間がアンドロイドに奉仕する形に反転されているのは面白いところ。
アニメーションは安定の動画工房クオリティ。
・『長門有希ちゃんの消失』
特に後半で長門有希が記憶喪失になってからの『朝倉涼子さんの実在』感が好きです。あのサークルに朝倉涼子を存在させたことが最高の二次創作要素のような気がします。
こうやって書き出してみると結構アニメ見てますね。