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『アカマイ―知られざるインターネットの巨人 』 ―ネットワークのお勉強の本でした

 

アカマイ―知られざるインターネットの巨人 (角川EPUB選書)

アカマイ―知られざるインターネットの巨人 (角川EPUB選書)

 

 

アカマイとは

著者がおおまかに言うところアカマイとは「顧客のデータをインターネット上で迅速に配信することに特化した多国籍企業」です。

2014年7月の本書出版時点で、世界92カ国に15万台のサーバーを分散配置し、同社の公表によると「世界の15~30%のWebトラフィックを配信している」とのことです。

 

アカマイはCDS(Contents Delivery service)の企業でり、大量のデータを送るために最適化されたネットワーク(CDN: Contents Delivery Network)環境を提供しており、そのようなCDN事業者のなかではパイオニアであり、また第二位を引き離してほぼ寡占状態ということです。

 

本書の内容

本書はなぜアカマイがこれほどのインターネットにおいてこれほどの巨大な企業になったのかという問題に迫るために、実際にインターネットがどのような通信の仕組みで動いているのか、またそのようなインフラ事業者間でどのようにお金が動いているのか、ということを平易に解説することで、アカマイの事業と儲けの仕組みについて知るとともに、インターネットの基礎知識もについても啓発するという内容です。技術の解説が2/3、ジャーナルな記事が1/3というかんじでした。

 

●ネットの設計思想とは

たとえばパケットルーティングといった一見すると人間には奇妙な仕組みが、機械にとっては負荷が少なくなるような設計思想で貫徹されており、それによってインターネットのスピードや規模が実現されているなどという解説は分かりやすかったです。

ルーターは複雑な処理を行わず単純な処理に専念するというのが、インターネットの設計思想です。…実際に自分が転送しているパケットが次の機器へと正しく届いているかどうかすら、ルーターは気にしません。

(…)

「パケットが届くようにできるだけの努力はするけど、保証はしないよ」というのがインターネットなのです。

もしルーターが、すべてのパケットを正しく到着するように頑張る設計であったとしたら、ルーターは自分が処理するすべての通信の状況を把握しなくてはならないため、恐ろしいほどの処理能力と記憶能力が求められることになります。結果としてルーターが非常に高価になるので、インターネットの普及は難しかったでしょう

そうはいっても、データが相手に届くかどうかよくわからない状態では困ります。(…)インターネットは、相手に確実にデータを届ける処理を末端機器であるコンピュータなどに任せるという設計を採用しています。(…)こうした設計の最大の特徴は、それが分散処理になることです。(…)このように「末端が頑張る」ことによってインターネットの規模性(スケーラビリティ/Scalability)が実現されているのです。

 こうした設計思想に基づいた具体的な約束がプロトコルと呼ばれるものです。

 

●ニッチ産業的な

このような説明を拡大していき、インターネットのサービスを提供する企業(たとえばNTTコミュニケーションズ)の間でどのようにお金が動き、アカマイがどのようにCDSを提供し、不動の地位を築いているのかを解説していきます。

 

すごく単純な理解ですが、ネット事業にはその成り立ちから隙間が生じていて、そこをつなぐ隙間産業(というには巨大すぎるのですが)として発展したのがアカマイであり、世界中にサーバーを分散させたことで下位のネット事業者にとって必要不可欠なインフラとなり、いまやその地位がデファクトとして揺るぎないということのようです。

 

●インターネット=寡占企業たちの構築するネットワーク?

寡占が進むと特定の事業者に人々の視聴が集中するようになります。グーグルのように、自社でネットワーク設備等の大半を用意する場合もありますし、アカマイを含むCDN事業者のサービスを利用する場合もあります。多少極端な話になりますが、インターネットにおいて寡占が進むと、たとえば、インターネットいくつかの企業が構築するネットワークへと変貌するような可能性もあると私は考えています。

 

たしかによく考えてみれば、インターネットがフリーなものなどという保証を誰かがしているわけではないんですよね。でもフリーであるべきだ、というイメージは強い。だからこそ本書のマーケティングのような、「実はフリーと思われていたインターネットを影で操る巨大企業がいた!」という陰謀論的煽りが効果的なのかもしれません。ちなみに本書それ自体は中立的な解説と展望でまとめてあり、いかがわしいものではありません。