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『アニメ学』(2)―アニメにおけるデジタル化と地方分権化について

 

アニメ学

アニメ学

 

 

アニメ学の概説書で、多くのトピックを扱っていますが、「アニメの制作手法と技術」と「アニメーションにおける人材育成」という章が興味深かったので、少し備忘に。

両者に共通するキーワードはデジタル化です。

 

●アニメの制作手法と技術

こちらの章では、アニメ制作のデジタル化について詳しく記述されており勉強になりました。まずアナログ(伝統的なセルアニメ)の制作手法を解説し、その後にアナログアニメーションを再現する形で発達したデジタルの制作手法を、アナログとの違いに触れながら説明しています。

 

デジタル化については、一部の前衛的な作品における使用を除けば、1992年のアセテート(不燃性で透明度が高く、セルロイドに代わって使われていた)の製造が中止になると必要性が増し、コンピュータの高性能化や低価格化もあり、1990年代の後半から、アニメーション現場に急速に普及しました。

 

3DCGアニメについても論じています。日本では、3DCGが映像の新しいジャンルではなく、アニメというジャンルにおける新技術として受け入れられたのは、2004年の『アップルシードからです。この作品では、手描きのアニメーションと同じ質感を表現する「セルアニメレタッチレンダリング手法」(トゥーンシェーディングorセルシェーディング)が用いられました。「セルの質感は視聴者が長年にわたって視聴してきた安定感のある表現手法であるため、3Dコンピュータアニメーションにおいても、日本ではこのセルアニタッチレンダリング手法が多く利用され」ています。

制作技術だけでなく、表現がデジタル化しても、アナログアニメの再現というテーマを残っているようです。3DCG技術につては、金子満という人がキーパーソンであるようで、知らなかったのですがwikiなどを見ると「日本のコンピュータグラフィックスの父と称される」とのことです。(それよりも浜三枝の夫というのに驚いてりして)

 

そのほか、カラーマネージメント技術や多様な映像フォーマットの乱立、ネット―ワークインフラの問題などの問題について言及しています。

 

●アニメーションにおける人材育成

この章では、アニメーションにおける人材育成の問題を、労働条件や教育機関だけでなく、「地方によるアニメーション制作と人材育成」という切り口で論じているのがユニークです。アニメーション産業は東京に一極集中しています。(全国359/440社=81.5%

「集中する要因は、アニメーションを流通させる出版社、テレビ局、広告代理店などが東京に集積しており、長年にわたって流通ネットワークが整備され、知的インフラとして構成されている点が挙げられ」ます。とくに練馬区(74社)と杉並区(71社)で全体の三分の一を占めます。これは「アニメの制作工程が多数の企業間分業による労働集約的な作業である」ためで、東映動画虫プロ竜の子プロ東京ムービーといった大手制作会社を周辺に、関連制作会社が集積した結果です。

 

地方の制作会社では、京都の京都アニメーション、福岡のぴえろの分室、冨山のピーエーワークス、徳島のユフォーテーブルの分室、宮城県白石市旭プロダクション分室(『戦国BASARA』をきっかけとした同市の地域振興の誘致政策に呼応)、茨城県のメディクリエのアニメ制作部門スタジオぷYUKAI、愛知県豊田市の豊田自動や本社内の「西ジブリ」(すでに撤退)、兵庫県神戸市のアニタス神戸神戸芸術工科大学が中心となり設立)などが紹介されています。

 

「アニメの制作手法と技術」の章でまだ大容量データの転送には不十分とされたネットインフラですが、以前よりは利便性が増したのでしょうし、それ以外にも生活費や居住環境などアニメーターの労働環境に地域がやさしいのは確かで、著者は地方の制作会社の試みが都市集中型のアニメ産業の労働・教育問題を変革(分権化)していく可能性があるとして評価しています。いわゆる地方の雇用創出という観点ではなく、あくまでアニメ産業を蝕む問題に対するオルタナティブとして地方の制作会社の例を取り上げているところがユニークです。

なかでも京都アニメーションのモデルを好意的に紹介しています。

会社立ち上げから地方の制作環境で必要な人材を育成し、その英知を結集し、同社がアニメ人材育成を積極的に行う姿勢はアニメ業界にとって極めて貴重な活動であり、それが見事花を咲かせ、卒業生が同社で活躍するこの現状を教育機関やアニメ会社は見習うべきであろう。

日本のアニメーション教育機関については、1990年以降にデジタル技術が発達したことに伴い、コンピュータ、情報、デザイン、美術、工業といった専門学校から派生するかたちで多くの学科が設立されてきました。

海外においては、著者はアメリカのディズニーが全面的に支援して設立した名門カリフォルニア芸術大学を高く評価しています。ジョン・ラセターティム・バートンなどを輩出した大学です。

現在でも優秀な学生を輩出しているカリフォルニア芸術大学の精神、システム、大学の設立から産業界を巻き込んだ大学の発想は日本では皆無といってよい。そういった本当の意味での産学連携システムを日本で構築することこそ、本当の意味での教育の体系化、国際化ではなかろうか。

 さて、アニメ制作過程や表現においてデジタル化がアナログ化を再現する形で技術を利用してきたと先述しましたが、教育に関してはアナログ時代のレガシーを変革していく必要性があるようです。そして視聴者の目に見えないところのデジタル化が今後進むと、どのような影響を及ぼしていくのか興味深いところです。