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お楽しみはパジャマパーティーで

読書の備忘、アニメの感想などを書いています

『日本のアニメは何がすごいのか――世界が惹かれた理由』

 

 

●日本のアニメは「すごく」売れてはいない

 

題名だけ見ると、日本産アニメ礼賛本のような印象を受けますが、内容はそうではありません。もちろん海外産アニメと比べた日本のアニメの特異性*1について、アニメに馴染みのない一般読者向けに概説しており、それで本書の3分の2を占めています。しかし論点は、「すごい」という日本人の海外からの承認欲求をくすぐる言説に対して、「アニメの海外での売り上げの実態は、巷で言われているイメージとは相当に乖離がある」ことを指摘していることでしょう。

ひとことで言えば、アニメはそれほど売れていないのだ。2000年半ば以降、リーマンショックなどの世界規模の経済危機などもあり、アニメだけを特別視できない面もあるが、一般的に認識されているほどには、アニメは売れていないのである。*2

 

●お国との付き合い方を考えよう

具体的な提言としては、もはやアニメを世界に宣伝する段階は過ぎているのであり、現地の人々に買ってもらうことを考えるべきだと述べています。ただしそれに関しては各国の法律*3や放送チャンネルやその他インフラの問題などがあり、ビジネスになりにくい現状があるので、ここで国の力をうまく活用することが必要だと言います。

 

国内のクリエティヴな人種はとかく国の関与=規制と忌避しがちです。ですから国側も、企業努力で不可能なインフラへの対応や法整備などに取り組むにあたり、「作品制作そのもとのは距離をおくべきである」というのです。要するに国との関わりについては肯定派であり、関わり方を建設的に議論していこうという姿勢です。

 

とはいえ、この点に関しての著者の主張はプラグマティックで、「 国が関わったら、表現上の規制が強くなって、自由に作品が作れなくなると危惧する声が相変わらず多いが、税金が制作資金の原資であり、すべての国民に等しく権利を保障する立場の国が関わる以上、表現上の規制が強くなるのは当然のことと考えるべきである」とも述べています。これは「日本よりもこの種の制度がはるかに進んでいる欧米でも同様」、つまりグローバルスタンダードだということのようです。

 

●その他

日本人のアメリカに認められたい欲求みたいなことについて言及されていて、なるほどなあと思いました。アニメに関しては東映動画が「東洋のディズニー」を目指していたという歴史があるからです。ただそのことと、アメリカが世界一の大国だということもあり、本書自体が、「海外」「世界」「アメリカ」の言葉を曖昧に使っているきらいがあるように感じました。これは『クール・ジャパンはなぜ嫌われるのか』でも感じたことですが、もうアメリカ(+フランス)で統一してもらったほうが分かりやすいような気がするのですが、それでも「世界」とか「海外」という言葉が選ばれるあたり、本書が指摘している承認欲求の好例なのではないかと邪推します。

 

本書では「地域による受容の違い」として、アメリカ以外にも、フランス、スペイン、イギリス、中国についてそれぞれ数ページずつ紙数を割いているのですが、それも著者の古い見聞や恣意的なトッピクにすぎず、結局アニメにとって「海外」や「世界」が何なのかは曖昧です。

 

ただ総じて、「アニメ」に関しては自国が「本場」だという日本人の自負心様々な事実を曖昧にして都合よく解釈してしまっているという著者の現状批判に説得力があるのは、アニメーション史家として日本のアニメを相対化する視点があるからであり、「アニメーション」というくくりで見れば、たとえばアメリカであったり旧共産圏といった国々にやはり「本場」が存在するのでしょう。

 

*1:たとえば本書で言及しているトピックは、兵器や道具ではないロボット、スポ根、魔法少女ヤングアダルト向けの内容、などです

*2:たとえば本書で言及されているところによれば、2011年の国内のアニメ産業全体の市場規模は1兆3393億円(うちアニメ制作会社の売り上げは1581億円)であるのに対し、海外での市場規模全体の推計値は177億円4500万円。※ちなみのこちらの記事のよれば、「海外の市場ですが、分かりにくくて済みません、177億ではなく2,669億円です。177億円というのは日本が得た収入のことで、海外での推定市場売上(ユーザー売上)は2,669億円あるということです。」

*3:本書で繰り返し述べられていますが、外国ではアニメ=子どもが見るもの、という意識が根強いらしく、暴力や性的な描写への規制がかなり厳しいということです。あるいは、国内文化の保護のもと外国の作品の放映を規制するEU諸国や中国の例についても述べられています。